「Indefinable Cities ジャパン・ツアー 日誌2」はこちら

7月13日

ここ数日、展覧会準備のピッチが上がってきている。というより、スケジュールが近づいてきて焦ってきたのか。昨日は、ホームセンター、ヨドバシカメラに買い出し。木材、ペンキ、パテ、転写シートなど。はたして上手くいくのだろうか。

午前中に注文していた、会場用のポスターが届く。大判で印刷してそれをカットする。もう少し印刷が細かいと嬉しいのだけど、まぁまぁの仕上がり。

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レベッカさんの作品を、大阪での展覧会に合わせて工作。これは、イギリスの展覧会で学んだ事でもあるのだけど、原画にこだわる必要がないのであれば、作品が持つポテンシャルを最大限に引き出す方法を考えるのが、ディレクターやキュレーター、その展覧会を支える人たちの役割でもある。

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夕方、レンタカーを借りて関空へグレンさんを迎えに行く。景色はすっかり夏だ。ストークでは最高気温が20度ぐらいと聞いているので、グレンさんが日本の夏を耐えられるのか心配する。それに加えてうちにはエアコンが無い。1時間ほど空港で待って、久しぶりの再会。ウェルカム・トゥ・ジャパン。帰りにビールとおつまみを買って帰宅。

7月14日

朝ごはんにパンケーキ、昼ごはんにうどんを食べてから、3人で大阪へ。グレンさんがカメラのレンズを見たいというので、いくつかカメラ屋さんへ。レンズの値段は日本もイギリスもさほど変わらないみたい。東急ハンズ、ヨドバシに寄って展示で必要なものをいくつか購入。USBケーブル、L字フック、ひっつき虫、など。休憩で純喫茶に入り、メロンソーダを注文してはしゃぐ外国人。

アトリエ三月にも寄って原くんにご挨拶。グレンさんも原くんの作品を気に入っていたよう。最後はたこ焼きを食べて帰宅。大阪を満喫。

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自宅に戻って、紅茶で今日一日を振り返る。そして、月夜と少年のウェブサイトの英語をチェックしてもらう。単語毎に見ると、別に間違ってはいないけど、文章になると、流れが不自然になっていたりするとの事。

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グレンさんも、AirSpace Gallery のブログで日記を書いています。合わせて読むと面白いと思います。
http://airspacegallery.blogspot.jp/

7月15日
グレンさんは時差ぼけで、今日はゆっくりの起床。お昼にラーメンを食べてから、グレンさんはヨドコウ迎賓館へ。僕は事務仕事を片付けに銀行へ。展覧会の準備も順調に進んでいる。

夕方から、少し風が強くなる。台風が来ている。ちょうど大阪の展覧会の設営日が直撃らしいのだけど、大丈夫だろうか。グレンさんといろいろな話をする。イギリスで、どのくらい日本の事がニュースになっているのか?例えば今日の安保法案の事とか。グレンさんは全く今の日本のビッグニュースを知らなかった。ちなみに彼は大学で政治学を専攻していて、常日頃から非常に政治学的な視点から話をしているような人だ。そんな彼でさえ、今の日本の政治の事は何も知らなかった。どこの国でも状況は似たような状況で、自分たちの周りでは誰も望んでいないような事が、政治の世界ではまかり通るものだと。そして、僕たちはそういった世界から少し離れたところで、政治なんかが決めるよりもっと強固で柔軟な繋がりを持って、自分たち自身の生活を築いていけば良いのだと。

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そして、お互いのバックグラウンドの事を少し話す。グレンさんは、Glen Stoker とうい名前なのだけど、Stoke on Trent という町に住んでいる彼は、とてもStokeの事を愛していて、だから芸名みたいなものでStokerという名前を名乗っているのかと思っていた。でも、本当はStoker というのが実際のファミリーネームで、かつては蒸気機関車とか蒸気船の火の番をする人の事をStoker と呼んだらしい。そして、Glen というのは、スコッティッシュで谷の意味があるらしい。妻の旧姓が谷口だと言うと喜んでいた。

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今日は沢山しゃべった。展覧会にはこういう時間がとても大切な気がする。そして、皆で晩ご飯。の後、ベンさんの作品のテスト。上手く行く事を。

7月16日

季節外れの台風が近づいている。1回目の月夜旅楽団をやった時も台風の直撃にあった。今更ながら雨男である事を認めないわけにはいかなくなってきた。午前中はまだ、雨は降っていない。風が強くなってきた。

ベンさんの作品の準備。壁紙を7㎡分ピンク色に塗る。ベンさんから完璧とのお褒めのメールを頂く。

夕方になって雨が降り出した。歯の調子が良くないというので、グレンさんを台風の中歯医者に連れていく。まさか、歯医者でイギリス人の通訳をする事になるとは。レントゲンを撮って、抗生物質の薬をもらって帰る。

さごしの西京焼き、玉子焼き、納豆、玉ねぎサラダ、ワカメと豆腐の味噌汁、白ご飯というとてもスタンダードな日本食の晩御飯。そして、食後に、クッキーとイングリッシュティー。ティータイムは会話を豊かなモノにしてくれる。というか、グレンさんがおしゃべり好きなだけかもしれないけれど。

何故、始めに大学で政治学を専攻していたのかという事を聞いた。彼は1970年生まれで、冷戦の真っ只中にあって、資本主義と社会主義が争っていたし、フォークランド戦争はあったし、アイルランドとの紛争でイングランドの街中で爆弾が爆発するなんて事もあったし、その後は産業が崩壊した。ピストルズにしろ、ビートルズにしろ、青春の時代に聴いた音楽は全て政治的なメッセージを持っていた。「僕らの世代は政治に興味を持たずに成長してくるなんて事は出来なかった。」と言っていた。でも、大学に入ってからいろいろ学んで、政治というものが、もうこれからの時代には無意味だと思ったそうだ。自分たちがどれだけ反対しようと、どんな意見を持っていようと、大切な事は自分たちの与り知らぬ所で、もう何ヶ月も前に決定が下されている。表面からでは見えない事がその裏側には必ずあって、そこに夢や希望を託す事は無意味だと痛感したそうだ。彼は、選挙権を得てから一度も投票をした事はない。彼は、選挙に行かなくても、どんな政党が政権をとろうとも、自分自身が自分自身の生活を変えられるという事を知っている。

他にも、もっとたくさんの事を話したはずなのだけど、、、

いよいよ、明日から怒涛の搬入ツアーが始まる。台風は大丈夫だろうか。。。

7月17日

目覚めたら、思っていたより雨はひどくない。これなら搬入にも行けそうだ。一応作品をビニールで包んで、搬入に向かう。

結構バッチリ準備をしてきたつもりでも、設営作業を実際に始めてみると、いろいろ忘れものをしている事に気付く。そして足りないものもいろいろと出てくる。サウンド系、映像系の作品があるとケーブル周りの処理をどうするかという課題が付きまとう。

グレンさんと雨の中、ヨドバシカメラと東急ハンズへ。微妙に欲しいものが揃わず、帰りにさらにコーナンによる事にする。グレンさんと作品の展示の仕方の話をしていると、両者でかなり違いがある事が面白い。月夜と少年チームはその場にあるモノで、もしくはスペースの許容範囲であろうところよりギリギリ下で、あまり無理のない範囲で作品を設営していこうとしている。グレンさんは、ある程度自分なりの展示方法や理論を持っていて、それに沿って行動している。それが多少、お金がかかってスペースの負担になるかもしれない事であっても、ある一定のラインの少し上を行く提案をまず投げ掛けてくる。自分のスペースを持たなくなって、誰かのスペースを借りながら、展覧会やイベントを企画する事が増えて、ついつい無理のないようにという事をまず考えてしまう。グレンさんと一緒に何かをやるのは結構良いバランスなのかもしれない。何よりも、言葉を通じずお互いのバックグラウンドの違う部分が大きい分、沢山コミュニケーションを取る。

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今日のうちに出来る事を全て終える。帰りにホームセンターで足りないモノを買い足す。そして、近くで豚カツを食べて帰る。チップは払うのかと聞かれ、日本では払わないというと、驚いていた。飲食店のウェイターやウェイトレス、バーテンダーの賃金は安くてチップがあるから頑張って良いサービスをしようと思うのだそうだ。そして頑張って良いサービスを提供すればその分お客さんが沢山ついて、例え時給が安くても稼ぐ事出来る。グレンさんもバーで働いていた時には、一晩で40〜50ポンドぐらい、時には給料の倍ぐらいをチップだけで稼いでいたそうだ。そして、自分がチップを貰ってとても嬉しかった体験があるから、自分がお店に入って良いサービスを受けたらチップを出来るだけ払いたいと思うのだそうだ。この気持ちはどうしたら良いのか、と聞かれた。そして、彼はどんな場所で買い物をする時でも、食事をする時でも、店員さんに向けてありがとうと言っている。

雨がひどい。台風が通り過ぎた後の方が沢山雨が降っている。ずぶ濡れになって帰宅。そしてこの日誌を書きながら、お互いの一日を振り返って、長話。グレンさんはいくつかの言葉の日本語を僕に尋ね、僕は「ありがとう」という言葉がいかに大切なモノかという事に気づいた、という話をグレンさんにした。

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