3月31日から4月14日まで「Idefinable Cities / まだ見ぬ都市から」という展覧会の為、イギリスのストーク・オン・トレントという街に滞在しました。日々の記録、考察をメモしています。

4月7日以降は滞在日誌2をご覧ください。

1日目 3月31日

24歳、アメリカから日本に帰ろうと思った時に、確か僕は、地に足をつけて活動して、今度は日本の素晴らしいアーティスト達を、海外に連れて行けるようになろうと、そんなような事を考えていた。全く何も分からない所からギャラリーなんて始めたけど、10年何かにしがみついていると、それなりの所に行けるものだと、何となく感じた。10年経ってようやくここまで来れたかという感慨。

思っていたより早くに準備も整い、自宅で少し早めの夕食。菜の花とベーコンのパスタ、わさび菜のサラダ。午後8時過ぎ、自宅の玄関まで乗り合いのタクシーが迎えに来てくれる。前日に合流していた村上くんとともに3人で、自宅から関空まで直行。これで1人2000円ちょっとなのはお得。

空港で西ちゃんと合流。チェックインもスムーズ。午後11時のフライト。まずはカタール航空でドーハまで。離陸から1時間ぐらいで、晩御飯がサーブされる。なかなか、凄い時間に食事だなと思いながらも完食。わりと美味しかった。読書、「待つということ/鷲田清一」。妙にアタマが冴えて機内でまずは1日目の日誌を書き始める。

飛行機内ではひたすら寝る。ドーハ到着前に朝食。11時間ぐらいの間に2度の食事。そう考えれば、まぁ、普通かという感じもするけれど、ずっと座っていてしかも寝ているだけで、ほとんど何もエネルギーを消費していないので、半ば無理やり食べる。外を眺めると、飛行機の遙か下で、海面もしくは海岸付近に橙色の光が灯っている。真っ暗闇でそれらの光以外には何も分からないのだけど、それは明らかに見慣れない光だった。

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2日目 4月1日

現地時間4時過ぎ、中継地のカタール・ドーハに到着。外はまだ暗い。とても大きくて綺麗な空港。早朝にも関わらず多くの旅人たちで、空港内のお店はどこも賑わっている。ヨーロッパ系、アラブ系、アジア系、アフリカ系、本当に色々な人種の人たちがいる。この場所が、世界の中心地で、この場所からしかどこへも行けないかのような錯覚。カタールで何か買い物をしたくて、チョコレートとアイスクリームを買う。

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2時間半程して、今度はマンチェスター行きの飛行機に乗る。またもや機内食が早々に配られる。食べ過ぎだろうと思う。しばらくして、何とも見慣れない景色に驚く。イランとイラクの国境付近。丸い歯の彫刻刀で斜面を無数に削ったような、美しい斜面の山々がどこまでも続いていて、その山間には不規則な形で線引された美しい緑の田園が並んでいる。地平線はだんだんと砂煙に白んで空との境界をぼかしている。そしてさらに上には濃いプルー。

寝て、本を読んで、2日目の日誌を書いている。そして、4度目の食事が配られようとしている。マンチェスターまであと2時間。イギリスは雨模様。マンチェスター空港に着いて分かったけれど、今朝のあのドーハの空港は異常だった。というか、カタールという国が今どれだけ勢いがあるのか、そしてイギリスにかつての勢いはもう無いという事が空港を比べればよく分かる。

入国手続き、そして荷物も無事に受け取って、AirSpace Gallery のディレクターの一人アンディさんと合流。途中、広大な牧草地帯を見て、イギリスの景色みたいというバカな感想を言って笑われる。マンチェスターから車で1時間半程のところにあるストーク・オン・トレントという街。これから2週間泊まらせてもらう、これまたAirSpace Gallery のディレクターの一人グレンさんの家に到着。とても素敵な家。

散歩がてら、展覧会を行うAirSpace Gallery にちらっと寄って、スーパーで買物をして、帰宅。ご飯と味噌汁という晩御飯。

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3日目 4月2日

午前6時起床。これは恐らく時差ボケ。ゆっくり朝食をとってから、10時前に家を出る。歩いて10分ぐらいのところにギャラリーがある。ギャラリーに荷物を置いて、グレンさんと日本チームで近くのカフェでお茶をしながら他のメンバーの到着を待つ。最近出来たカフェらしく、シンプルな内装で、気持ちが良い。紅茶も種類が豊富だし、珈琲も美味しい。ストークでは、新しいお店をやっていくのが大変なようで、是非長く続けてほしい。

出展作家のエミリーさん、そしてAirSpace Galleryのアンナさんと合流して、ギャラリーで展覧会の準備を始める。それぞれに少しずつ意見を出しあいながら、展示方法や場所を決めていく。とても柔軟な発想で作品の本質をしっかりと見ていて、それを一番よく見せられる方法を探っている。作家の思いを、より伝えられるのなら原画にすら拘らないというのには結構驚いた。

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昼食は近くのパブへ。元々電話の交換局だったという建物でとても美しい造り。こういう場所で食事が出来るのはとても豊かな気持ちになる。皆でサンドイッチを食べる。とても美味しい。

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夕方からは、AirSpace Gallery 2階のアトリエを使用しているアーティスト達が集まって懇親会。アーティストの年齢層が幅広い。学生から40代後半のアーティストまで、そしてパフォーマーからペインターまで色々な人たちが集まっている。もう一つ、日本との違いを感じたのは、彼らのその雰囲気。パッと見は、アーティストである事が分からない。日本だと、会社勤めの人たちと何かを創作している人たちだと、着ている服や髪型が結構違うように感じる。会社勤めの人たちはスーツにネクタイだし、アーティストはユニークなファッションをしている。でもイギリスだと、アーティストも日本程ユニークなファッションではないし、会社勤めの人もスーツにネクタイという人は見かけない。アーティスト達がアトリエに来るのも、ごく当たり前に仕事場に来ているような感覚なのではないかと思う。アーティスト達もあまり特別な事をしているという意識はないのではないか。そんな環境がとてもうらやましい。

4日目 4月3日

午前6時起床。時差ボケは続く。今日は雨。そして寒い。細かい雨でこれぞイギリスと言いたくなるような天気。本日も午前10時にギャラリーへ。もくもくと皆それぞれの作業をする。僕は村上君の作品用にテキストをひたすら翻訳、そしてその英語をアンナさんにチェックしてもらいながら進める。作品に関してかなり細かく突っ込んだ事を聞いてくる。アーティスト同士でもそうだけど、アーティストとキュレーターで、お互いに作品についての意見を積極的に言い合うのが新鮮。日本だと、アーティスト同士で、「あなたの作品は、ここをこうしたらもっと面白いと思う。」なんて事めったには言わないもんね。とにかく仕事がし易い環境でうれしい。

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夕方からグレンさんと一緒に近くのギャラリーのオープニングに足を運ぶ。とても素敵なスペース。これからストリートアートを発信していきたいとのこと。夕食はアンナさんとアンディさんの自宅に招かれる。ストークの街を歩きながら、グレンさんにストークの街の状況、さらにはイギリス全体の状況を聞く。とにかく2000年代に入ってから、あらゆる産業の衰退が酷く、それにともなって財政危機に陥っているらしい。特にストークでは、図書館が閉まり、ミュージアムが閉まり、市営プールが閉まり、どんどんと公共施設が閉鎖されていっているほど状況はひどい。もともとは、陶磁器産業や炭鉱、製鉄などで栄えていた街なのだけど、近年は凄まじい勢いで空き家が広がっているらしい。実際街を歩いていても、本当に空き家だらけで、何というかゴーストタウンのような感じなのだ。ここ数年日本でも、色々な土地に行って過疎の状況を見てきたけれど、このストークという街は、それらのどの街より一段階レベルが違うように思う。そのどうにもならないような状況を、AirSpace Gallery の皆や、周囲のお店の若い人たちは楽しんでいる。

ちなみに夕食に招かれたアンナさんとアンディさんの家がある地域は、昔ながらのテラスのあるイギリスの家が並んでいる。150年ぐらい前に建てられた家で、近年ではイギリス全土でこういった古い昔ながらの家が取り壊され建て替えられていっているらしい。空き家が増えすぎて犯罪の温床になったり、景観が悪くなるというのが理由らしい。そして、新しく建て替えられるのはまだ良い方で、取り壊して更地にしたものの、財政が破綻してしまって空き地のままになってしまっている場所も多いとの事。そこで、ここストークでは、市が空き家が増えている地域を買い取り、それを若い人たちに£1(約180円)で販売するというプロジェクトを行っている。実際には、傷んだ家(屋根や床が落ちていたり、壁が崩れていたり)を修繕する費用を、市が10年ローンで貸し出すらしい。なので、実質月々5〜6万円程の支払いをする事になるとの事。彼らの家も£1ハウスプロジェクトで購入されたもの。

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晩御飯はベジタブル・カレー。美味しくてついつい食べ過ぎる。こっちに来てから皆に本当に良くしてもらっていて、これをどうやってお返ししようかと少しばかり悩む。でも、結局は良い展示をする事が一番なんだろうと思う。

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5日目 4月4日

大分時差ボケも収まってきて、今日は7時起床。と思ったら朝食後に二度寝。それぞれに出かけて、今日はのんびり作業。8時過ぎぐらいまでは外が明るいので、時計を見てもうこんな時間かと驚く。簡単な夕食を取って、洗濯をして終了。明日は月夜チームと、AirSpaceチーム皆で、Calk Abbeyにちょこっと観光。

6日目 4月5日

今日は、お弁当を持って皆でCalke Abbey へ。ストーク・オン・トレントから車で南東へ1時間ほど行った所にある、16世紀に建てられたハーパー家の邸宅。恐らく、日本ではほとんど知られていない場所(もちろん僕も全く知らなかった)だろうけど、とんでもない場所だった。

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凄まじい数の剥製、絵画、鉱石、化石、貝殻、陶磁器、などなどがコレクションされていて、正に「驚異の部屋」。ダイニングルーム、寝室、リビングルーム、本当にどの部屋もコレクションで溢れかえっていて英国貴族の狂人ぶりが垣間見えた。こういう所から博物館が生まれ、そしてギャラリーの文化が発達していったかと思うと、層の厚みというか、根の深さというか、日本のそれとは全く異なる血が流れていると感じてしまう。日本人として、これからの未来へと繋ぐアートにどのように関わっていくべきなのか、大きな課題を与えられている気がする。

クタクタになって館内を見終わった後に、皆で小高い丘の上でお弁当を広げる。何だろうこの牧歌的な雰囲気の景色と、あの凄まじい屋敷のコントラスト。

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7日目 4月6日

今日でイギリス滞在前半が終了。皆それぞれ、もくもくと制作作業。僕は、村上くんの作品の翻訳作業。村上くんのテキストを一旦僕が訳して、それをアンナさんにチェックしてもらって、リライトしてもらうという方法。この方法をかなり気に入っている。年齢がお互いに近いせいか、環境が近いせいか、考えていることが近いのでとてもスムーズに英語に変換されているのに感心する。皆もくもくと作業をしていると、あまりここに書くことがない。ギャラリーと家を往復していて、ここがイギリスであることを忘れてしまう。日本にいる時とほとんど変わらない日々。

買い物をして帰ろうと、ギャラリー裏の巨大なスーパーマーケットに寄る。ところが、イースター・マンデーでお休み。中東系の人たちが経営している小さなお店は開いている。なるほどねと思いながら家に帰る。空がきれい。こっちに来てから初の夕日かもしれない。夜はペンネアラビアータ。

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