3月31日から4月14日まで展覧会「Idefinable Cities / まだ見ぬ都市から」の為、イギリスのストーク・オン・トレントという街に滞在しました。日々の記録、考察をメモしています。

4月6日までの日誌は滞在日誌1をご覧ください。

8日目 4月7日

お弁当を持って、早めに家を出る。霧が出ていて、あぁイギリスってこんなイメージだよね、と思う。ギャラリーで鈴木さんの作品を設置。

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昼前には、イギリス側の出展作家エミリーさんとベンさんもギャラリーに到着。ベンさんは車椅子に乗っている。これまで、身近な所で車椅子の生活をしている人に接した事がなかったので、色々と新鮮。身体の色々な部分を器用に使って、作業をしている。周りもとても自然にサポートをしている。障害を持っているというよりも、一つの個性として本人も周りも受け止めているように感じる。誰でもそれぞれに出来る事と出来ない事、得意な事とそうでない事があって、それを補い合って生きている。そういう当たり前の事を、当たり前に出来ると色んな事がスムーズに行く。

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日本チームとイギリスチームの設営の仕方が全く違うのがとても興味深い。日本人は、やはりかなり細かい所を見ていて、そして慎重に一つずつ手順を踏んでいて、繊細な作業をしている。一方でイギリス人は、豪快で思い切りが良い。壁を直接ペイントしたり、穴を開けたり何かを取り付けるという事に躊躇しない。ガンガンやる。グレンさんとお互いに、それぞれ興味深く質問し合う。

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そして、5時になったらサッと解散。日本人のように、帰る前にごにょごにょしない。今日は一日晴れていた。こっちに来てから本当に曇りか雨ばかりで、如何に天候が精神に影響するかを実感した。街全体が石造りというかレンガ造りだからか、曇で光が少ないと、本当にゴーストタウンというかサスペンス映画に出てきそうな雰囲気になるのだけど、今日一日はとても明るい雰囲気が漂っていた気がする。

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9日目 4月8日

昨日に引き続き、日英合同の設営作業。村上くんの巨大に引き伸ばした作品を壁に貼り付ける。一気に作業が進む。イギリス側はプランを立てて、ゴールを定める。後は一気にそこに向かって仕上げていく。ギャラリー側もアーティスト側も見せたいモノの配置の仕方や場所などがかなりはっきりしていて、パーソナリティがかなりはっきりしている。一方日本側は変化する会場内の様子を見ながら、少しずつ作品の見せ方も変えていって、全体が如何にうまく収まるかというのを意識している。そして、ついついモノで空間を埋める方に考えてしまう。

10日目 4月9日

西ちゃんは昨日設置したモノを一旦全て外して、一からやり直している。結果、彼女の日本での展示とはかなり違う仕上がりになったのではないか。いくつもの要素を沢山詰め込んで混沌としたモノが構成する空間全体で世界観を見せる、そういういつものやり方とは違うモノが出来上がっていた。ストーク・オン・トレントで彼女が拾った陶片、そしてそれらを組み合わせて作った物一つ一つに世界観が詰まっていたように思う。全体で雰囲気を見せるのではなく、一つ一つの物に世界を収めていた。

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作業が終わって、グレンさんを夕食に誘う。と言ってもグレンさんの家なんですけどね。メニューは親子丼と味噌汁、サラダ。妻と西ちゃんがご飯を準備している間にグレンさんと話をした事がとても興味深かったので、以下にまとめておく。

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イギリスでも作品を売って生活出来るアーティストは数%しかいない。皆学校で教えたりワークショップをしたり、何らかの他の仕事をしながら作品制作をしている。ロンドン以外の都市でそういう風に作品を売るというのはなかなか難しい。だからAirSpace Galleryのような都市部から離れたアーティス主導で運営するスペースで、作品を売ることはあまりやらない。まずは他の場所ではなかなか出来ないような実験的な事であったり、展覧会を行うアーティストにとって新しい挑戦になるような事をやりたいと思っている。ストークの人たちは少し保守的で、通りがかってそのままギャラリーに入ってくるというような状況にはなかなかならない。僕達の仕事は、安易に敷居を下げるような事はせずに、でも、出来るだけ一目みて何かが伝わるような、普遍的な力を持った作品を展示する事。イギリス人の多くは、コンテンポラリーなアート作品を見る時に、数学的に何か答えがあるんじゃないかと思って見ている。すぐにコンセプトを知ろうとするし、どのようにこの作品が生まれたのか必ず理由があるだろうというふうに見てしまう。でも、ただ見て感じていれば良いと思う。

彼はアートの世界に入る前に、もともと政治学を学んでいて、何か作品を見る時にどんなものでも、そこに政治的な意味を含んでいるように感じてしまう。というような話をしていた。村上くんの今回の作品はもちろんのこと、例えば西ちゃんの作品からは、イギリスにおける都市部とそれ以外の地域の乖離や、歴史、産業など様々な事を考えさせられると言っていた。

11日目 4月10日

今日はいよいよ展覧会のオープニング。何となく朝からそわそわとした感じ。朝ギャラリーに行くとモップがかけられていて、ピカピカになっている。夕方6時からのオープニングに向けて最後の仕上げ。ギャラリー正面の窓にカッティングシートを貼って、一気に展覧会の雰囲気が出てきた。そして、村上くんのプリントされた選挙ポスターを、ギャラリー前の工事現場のフェンスに取り付けに行く。

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今回、村上くんの展示は日本でやるのとは全く違う物になった。まず、原画がほとんど展示されない。メインの作品も巨大に引き伸ばされた作品を壁に貼って、そこに手を加えるという感じだし、他の作品も印刷物に姿を変えた。周辺環境や、社会にどれだけインパクトを与えられるかという事を凄く考えているように思う。こういった事を日本のギャラリーでどれだけ出来るだろうか。

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最後まで調整していたレベッカさんの作品も無事に設置され、3時過ぎぐらいにはドリンクも全て準備万端になっていた。6時ぐらいから少しずつお客さんも集まりだして、7時過ぎには結構な人数になっていた。客層も幅広くて学生風の人から結構年配の人までアートファンがストークにも沢山いるんだなと思った。村上くんの選挙演説パフォーマンスもあり大盛況でオープニングが終了。明日の地元紙の朝刊で展覧会の紹介が載るらしい。

12日目 4月11日

今日はアーティスト・スープ・キッチン。これはAirSpace Galleryが定期的に開いているイベントで、スープを食べながら、アートを中心とした議題で色々な事を話しあう。何かを食べながら話をすると、緊張がほぐれて議論が深まり、そしてその範囲は広くなる。朝早くから妻が味噌汁とおにぎりの仕込みをしている。

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AirSpace Gallery には展示スペースとは別にリソース・ルームという部屋があって、そちらでこのイベントが開かれる。リソース・ルームに置かれている大きな正方形のテーブルはとてもよく出来ていて、各辺に3人が座れるようになっていて、何でもデモクラシーの考えのもとこのテーブルの形を採用しているとか。3人ずつがこの大きなテーブルの各辺に座ると、とても均等に話しをする事が出来る。誰かがリーダーとなって話しをしているというよりも、大きなテーブルの中心に議題を置いて、それぞれに意見を述べる事が出来る仕組みになっている。日本では、デモクラシーというのが「民主主義」と翻訳されてしまっていて何の事だかよく分からなくなるけれど、本来は「議会制民主制度」の事なんだなと、とてもすっきりした。政治だけでなく、話をする事に皆が参加する環境を如何に整えていくのか、それがデモクラシーなんだと実感した。誰かに任さない。自分自身が話をして、そして相手の話を聞く。それが全ての基本にある。

まずは、アンナさんから今回の展覧会「Indefinable Cities」の説明。2012年に日本をリサーチで訪れた際の話から始まって、何故月夜と少年と共同のプロジェクトをする事になったのかという話。それ以外にもAirSpace Galleryの取り組みの紹介など。AirSpace Gallery には大きく分けて4つのスペースがある。1階に展示スペースとリソースルーム、それにグレンさんアンディさんのオフィス。2階にはアーティスト達のアトリエが大小9部屋あって、様々なキャリアのアーティスト達が制作場所として使用している。さらに、裏庭があって野鳥を観察プロジェクト等を行っている。ストークには20種を超える野鳥がいるとか。最近では、市とも共同で様々なプロジェクトを行っている。

そして、バトンタッチして僕から月夜と少年の活動や、今回の日本側からの参加アーティストである、鈴木さん、西ちゃん、村上くんの紹介。日本語でもなかなか上手く説明するのが難しい事を英語で説明しなければならないという、かなり難解なミッション。ただ、僕自身の英語力の足りなさから、英語だと客観的な事実を淡々と述べるしかないので、逆にその事が上手く働く場合もある。残念な事に、英語で話を聞いたり喋ったりしながら、スープを食べる事は不可能。完全に冷えたスープを飲む。とても良い経験になった。

明日、明後日とロンドンに行ってしまって、そしてすぐに帰国なので、今日がAirSpace チームの皆と顔をあわせる最後の日。初回のミーティングをしたパブに打ち上げに行く。とても、充実したストーク・オン・トレントでの滞在だった。