2009年に行われた画家の榊和也にる展覧会「樹海」のショートレビュー。

前回の個展「連瀧」からほぼ1年。「樹海」と題された今回の展覧会では、屋久島の深い緑が描かれた作品が並んだ。

搬入の時から、随分と何かが変化した様に感じていた。写真を元に緻密に描かれた油彩画である事に変わりはないのだけど、前回の作品群からは明らかに何かが変わっている。一体何が変化しているのだろうかと考える。展覧会の期間中、絵に近付いて葉の一つ一つに目を凝らしてみたり、少し離れてボンヤリと眺めてみたりしたのだけれど、その違いが何なのかというのが、よく分からないままに展覧会が過ぎていった。

展覧会も終わり記録写真を撮っていた。その時ファインダーを覗いていて不思議な感覚を覚えた。ファインダーでトリミングされた視界には、正しく屋久島で彼が見たであろう、霊気も漂う様な形容のし難い緑が映っていた。そうか。と実感するものがあった。それは意志なのだ。今、全身で感じているこの感覚を描き留めなければという意志。自分自身の身体で森に分け入り、山を登り山頂で見た空。写真を見て忠実に絵として描き起こしてはいるのだけど、恐らく彼は、屋久島で写真を撮る前に、その空気を全身で感じ、描くモノを全て理解していたのではないだろうか。写真は、実際に屋久島で感じた感覚に、その地から遠く離れた彼のアトリエで、再度辿り着く為の、地図の様なものでしかなかったのだろうと思う。前回の「連瀧」では、本やインターネット上で見た「瀧」の写真が全てだったのだ。今回、写真は彼の感じた「樹海」のごく一部だったのだ。キャンバスに描かれた木々や緑からは、さらなる木々と緑が無数に溢れ出し、ファインダーを覗く僕の体を覆い尽くしていた。