岩瀬ゆかによる展覧会「冬の木」のショートレビュー。

「冬の木」と題された、この展覧会期間中はとても雨の多い一週間だった。激しくはないけれど、ゆっくりと降り、止んだと思ってはまた降り出す。午前中晴れていると思っていたら、夕刻前にはもう雨が降っている。そんな春のおとずれを告げる様な雨がよく降った。

今回、作者本人に頼まれて、展覧会中にかけるBGM用にプレイリストを選んだのだけれど、Bill Evans で始まりGlenn Gould を通りKeith Jarrett で終わるまでの、その澄んだピアノの音、それに窓の外のいつまでも続くような雨の音とが相まって、彼女の見た世界は、僕の心をゆっくりと、でも確実に満たしていく様だった。

そんな中、展覧会も半ばに差し掛かった頃に、ある懐かしい人よりCDの贈り物が届いた。坂本龍一の「out of noise」という約5年振りとなるアルバムだった。彼が紡ぎ出し、集め、並べた美しい音の螺旋を、聴き進めるに従って、心に一つ浮かび上がってきた事がある。それは、「理解はいらない。只、世界を見つめ続ける。」という事だった。

彼女の描く絵にもまた、じっと見つめ続ける事でしか浮かび上がってこない、何か大切なモノが潜んでいるような気がしてならない。その何か大切なモノが気になり、ギャラリーをやる者として少し恥ずかしい事なのかもしれないが、初めて作品を購入する事にした。テントと川と木のそれぞれ小さなスケッチの作品だ。これからこの三つの絵を、僕は愛する音楽と同じ様に何度も見る事になるだろう。そのうち、「冬の木」のバックの空に、彼女が描いた美しいブルーを、僕にも見つけられる日が来るかもしれない。