今回、アルバムのジャケット、歌詞カード等のデザイン制作を担当させて頂きました。森ゆにという音楽家の事や、デザインの事はもちろん、CDというメディアに関してや音楽に関して等、本当に色々な事を考える機会になりました。この機会に少しここに書き記しておこうと思います。

ここ数年、僕はCDに対しての物としての魅力を、ほとんど感じなくなっていました。実際にピーク時には月10〜20枚程買っていたCDも、2010年に1年間で買ったCDはたったの2枚でした。わざわざCDを買わなくても音源はダウンロードで買えば、すぐにiPhoneに入れて聴けて便利だし、CDラックがパンパンになる事もありません。どのアーティストのどの曲をどんな順番で聴くのか、編集も思いのまま自由自在です。

そして、じっくりと音楽を聴きたい時はレコードを聴きます。ジャケットからレコード盤を慎重に取り出し、丁寧にホコリをはらってからタンテーブルに載せる、そしてアームをセットして、静かに針を落とす。音楽と真剣に向き合うにはこれくらいのテンポでないと着いていけない様に感じます。素晴しい演奏、素晴しい音源は中古レコード屋を巡れば、新譜なんて買わなくたって幾らでも出会う事が出来ます。

インターネットでの楽曲配信の便利さと、アナログレコードの素晴しさを改めて感じたのです。2010年は僕にとって、正にCDを買う意味を失った一年でした。恐らく、これから先CDというメディアを大量に生産して、それを映画、ドラマ、CM等のタイアップで莫大な広告費を使い、大量に消費していくというビジネスモデルは無くなるだろうと思います。所謂音楽業界というカタチは衰退していくより他は無いだろうと思います。

そんな事を考えていた僕に、2011年になって今回のこの「夜をくぐる」のエンジニアを担当した、water water camel の田辺玄さんが、ジャケットのデザインをしてみないか、という話をくれたのです。日頃から玄さんには、僕がCDというメディアに対して大分否定的であるという事は話していました。それでも、いえ、だからこそと言うべきでしょうか、CDに否定的だからこそ何かしら面白いモノが生まれるのではないかと考えてくれ、そして当の森ゆにちゃんも、以前月夜と少年でライブをやった時に場所の事を気に入ってくれて、月夜と少年にデザインを頼んでくれる事になったのです。

ジャケットデザインの依頼を受けてから、僕自身にとって素晴しいと思えるジャケットとはどんなモノかという事を考えました。まず、ジャケットを眺めて、どんな音が盤から流れてくるのだろうという事を想像させて、ドキドキさせてくれるモノである事、そして、そのアルバムをずっと手元に置いておきたくさせる様な、デザイン、質感のジャケットである事、という様に考えました。森ゆにちゃんからのリクエストとしては、ピアノと森ゆにちゃん自身がしっかりと向き合っている事の伺い知れるデザイン、そして玄さんからは、シンプルだけれどきっちりとデザインされているという事が分かるモノという様なリクエストでした。

割と早い段階で、森ゆにちゃんの写真をジャケットに使うという事が決まり、カメラテストの為に大阪に寄ってもらったりもして、とにかく、沢山コミュニケーションを取り写真撮影に望みました。モノクロ、カラー、35mm、120mm、と幾つかのフィルムを試したり、そして久しぶりに自宅で少し緊張しながら現像したりしました。現像のあがったフィルムをチェックしていて、撮影時の素敵な衣装を着てピアノを弾く彼女をファインダー越しに覗いて、ドキドキした感覚が蘇って来るのが分かりました。これは、良いモノが出来るという確信を得た気がしました。そして、その写真から妻がとても根気強く、それぞれの想いを掬う様にして、ジャケットと歌詞カードに落とし込んでいきました。

そして今、完成して出来上がったジャケットと歌詞カードを眺めながらCDを聴いています。僕はレコーディングに立ち会った訳ではありませんが、地震の後、計画停電の行われる最中、田舎のホールでポツンと一人ピアノに向かい歌う姿が浮かぶ様です。確かに、何かしらの特別な空気が封じ込められている事が分かります。写真撮影の休憩の時にたまたま立ち寄った花屋さんで、たまたま青い紫陽花を見つけた事。その花は、今回の一連のデザインの中で重要な位置を占める事になりました。色々な点と点が、偶然に重なり繋がって、確かな線となってこのCDを手に取って聴く人まで、ちゃんと届いていくのだろうと、今はっきりと感じます。

この重みを持った感触は決してデータをダウンロードするだけでは味わえないのだろうと思います。ただ、それならば、これをアナログ盤で発売する事は出来なかっただろうかという疑問が新たに浮かんだりはします。けれど、僕自身が胸を張って、誰かにこれは素晴しいモノだと勧められる作品になった事をとてもうれしく思っています。濃密なコミュニケーションの上に成り立った、理想とも思える仕事に携われた事に感謝します。この作品がどこかで、誰かの生活に小さな灯りを点している事を願います。