こごり / 岩瀬ゆか ( 2010.03.21 - 2010.03.27 )

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今、僕はこのあとがきを書くにあたり、昨年の展覧会「冬の木」の写真を見返している。「冬の木」というタイトルから受けるイメージからは少し外れていて、タイトル作品とスケッチの小品群を除いて、展覧会で飾られた作品のほとんどは女性のポートレイトで占められている。しかし、昨年の展覧会を開く前から何かしらの変化が起こり始めていたのだろう。これまで彼女は、ある美術ライターの言葉を借りれば「憂いとためらいを含んだ、複雑な表情が魅力の人物画」を中心に作品を描いてきたのだが、それがこの時の展覧会のタイトル作品は既に「冬の木」となっている。恐らく、彼女の中では新しい事への挑戦、欲求や熱の様なモノは既に沸々としていたのだろう。

展覧会から半年程経って、ギャラリーで行った音楽家の藤田陽介氏のライブを観に来ていた彼女は、そのライブ見終わって、こんな様な事を言っていた。「彼の演奏を聴いていて、手のひらが熱くなって、そこから溜まっていた毒みたいなモノが抜けていった。」恐らく、この時に新たな一歩を踏み出す事を決意したのではないだろうかと、僕は思っている。自分自身が過去に積み上げて来たスタイルに、これからの自分が縛られるなんてつまらない。今、自分の目の前にあるモノをしっかり見つめる事、そしてその喜びに忠実に筆を重ねる事。そんな決意表明だったのではないかと思う。

「冬の木」から丁度1年程して、今回の「こごり」が開催された。ギャラリーにはキウイ、リンゴ、梨、ドライフラワー、山並みの風景等、これまでの人物画からは距離を置いた作品が中心に並んだ。随分とすっきりとしたな、というのが一番の印象だった。彼女は身軽になっていた。新しいモノを目の前に、恐れて目を伏せるのではなく、しっかりと見つめそしてなんとかして見届けようという、そんな潔い思いが伝わってくるようだった。彼女の作品に触れた上で、物事をよく観るという所に、何か大切なカギがあるのだろう、という事を感じた。

そして、展覧会の最終日に、件の音楽家の藤田陽介氏を招いて行った、音楽会「色と音」は、とても印象的な夜だった。微細な音や声の変化に耳を澄ましていると、空気の小さな粒子一つ一つの振動に、自分自身の細胞までもが共鳴して喜んでいる事が分かった。岩瀬ゆかの絵画と藤田陽介の音楽、その場にいたお客さんも含め、いろんな物はもはや境界線を失って、ただその空間と時間とを一つに満たしていた。それは、この展覧会の締めくくりに相応しい時間だった。そこには確かに、幸せに生きて行く為の一つの答えがあった気がした。

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