いしわためぐみ展覧会「真空時計」に寄せて。

初めて、アーティストいしわためぐみの展覧会を月夜と少年で開催する。色々と回想するのだけれど、彼女との出会いがいつだったのか、それがはっきりとは思い出せない。恐らく10年も経っていないはずだけれど、もっとずっと昔から知っているような気もする。パートナーで、音楽家の藤田陽介を介して出会ったのは間違いない。どんな風に紹介されたのか、どんな事をしゃべったのか、ほとんど何も覚えていない。

こちらは兵庫県に、彼女たちは山梨県に暮らしているので、頻繁に会う機会はないけれど、出会ってからしばらくは4人(いしわためぐみ、藤田陽介、僕、妻)で、そして最近はお互いに子供ができたので6人で、年に1~2回はどちらかの家で食事をして、夜遅くまで話をして、また食事をするというのが、恒例になっている。関西で展覧会があったり、藤田陽介のコンサートがあればウチに寄ってくれたし、帰郷の際に中継地として休んでいくこともあった。僕らも、出張にかこつけて、関東方面に用事がある際には、彼女たちの暮らす場所に足を伸ばした。

アートや制作の話、それぞれの近況、子供ば生まれてからはもっぱら家族での生活の事。飽くことのない話の中で、それぞれのこんな所がどちらに似ているとか、同じような事でうちもケンカしたとか、相手の現状を確認しているようで、自分自身の姿を鏡で見ているような、不思議な感覚を覚えることが時々ある。そして何より、山での暮らしの話は、いつもとても興味深い。沢で魚を釣り、畑で野菜を採る。薪を割って、火を熾し、鍋を温める。生きることと制作と向き合うことが、地続きで在る事の難しさと、素晴らしさ。

そんな風だから、いしわためぐみという人間の、アーティストである側面だけを切り出して、その作品を見るということがなかなか難しい。彼女の作品を見るという事は、そこに藤田陽介の事を、2歳7ヶ月のむいちゃんの事を、彼女たちの山間の集落での暮らしの事を、そして、僕達家族自身の生活の事を感じてしまう。それでも今、このテキストを書きながら、3月末にまだ寒い大月を訪れ、彼女の家で見た作品の残像を反芻してみる。

二度と再現されない軌道をゆったりと漂い描くモビールと、その向こうに見える壁に飾られたいくつかの小品。有機的にも幾何学的にも見えるその線と色とを見ていると、空間や時間という概念は、受け手の”現在”の状況によって、どんな風にでも姿形が変わっていくのだなぁ、とぼんやりと感じる。彼女が作る作品に限らずアートは、いや、人々の日々の営みや、世界そのものだって、普段は気にも留めないけれど、本当はとても微妙で絶妙なバランスの上に成り立っているんだなと思う。この作品を、この場所で、この時に展示できる事をただただ嬉しく思う。

今回、展覧会「真空時計」を開催するにあたって、いしわためぐみがこんな風に記している。

わたしはいつも時間の中に身体を置きながら、この身体の内側に感じられる自分の時間を生きてきたようです。

意識に大きく左右されるこの内側の時間をじっくり見ていると、ときどき自分の調律のためなのか、普段使っている頭のスイッチを切ることで立ち現れる空間へと、出掛けていることがわかってきました。そのもっと奥にある、いつ行けるかもわからない特別な場所のことも。

そこには過去や未来が無く、時間が止まっているようで、高速で過ぎ去っていくような、身体が浮かんでいるようで、確かな重みを感じられるような、周りを遮断する壁があるようで、いつも扉が全開しているような、何も無いようで、全てが満ちているような、、、
わたしはそこに流れる時間を、真空時間と呼んでいます。

いま、自分の中の時計を把握しようと、不思議で当たり前のようなこれらの時間について考えを巡らせています。

2019年4月 いしわためぐみ

僕が、いしわためぐみと出会うよりもずっと前、まだ10代で音楽の道を志したばかりの頃、ステレオから流れるギターの一音一音に耳を澄ませば、いつだってそこは真空時間の特別な場所だった。当たり前過ぎて、そこが特別な場所であることに気づきもしなかった。でも、やっぱり時が経つにつれて、特別な場所に入っていく事は、どんどんと難しくなっていって、ましてや子供が生まれてからは、日々は一瞬のうちに流れ去り、その特別な場所が自分にあった事さえも忘れかけていた。

先日、彼女に会った時に、今こうやって作品を制作できる事が、本当に嬉しいし、楽しいし、有難い。イラストの仕事だって昔より断然楽しい。家族や周りの環境にもとても助けられている。とそんな事を言っていた。真空時間と特別な場所、展覧会「真空時計」のことをじっと考えている今なら、その気持ちが分かる気がする。


いしわためぐみ展覧会「真空時計」

アーティスト:いしわためぐみ
会場音楽:藤田陽介
会期:2019年5月5日 – 2019年8月4日
会場:月夜と少年 アトリエ展示室

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