齋藤キャメル from 福岡

タイトル : I’m here… #02
場所 : 福岡
撮影日 : 17th/Apr./2020
ゲスト : 齋藤キャメル
曲目 : 矛盾の歌/齋藤キャメル


齋藤キャメル、彼がまだwater water camel というバンドをやっていた頃から、何度もイベントに出演してもらい、沢山の歌をうたってもらってきた。日常の小さな喜びや悲しみを、そっと静かに掬い取り歌に残して来た彼が、どんな事を感じているのだろうか。彼は今、どんな風に世界を見つめ、どんな未来を思っているのか、話を聞いてみたくなった。

経済活動が停滞しつつはあるんだけど、でもそうなることによって何かを取り戻しつつもあるのかもしれない。

– 彼が暮らす福岡周辺の現在(2020年4月17日録画時点)の状況について。

ちょっと抜き差しならない状況になりつつあるかな。保育園とか学童保育とかリスクが高いから、基本的には連れて来ないで欲しいと言われている。TOMMY BEEFの方も、出勤日数を減らしてもらって、週の半分は家に居るようにしている。家に居る時は、ホームスクールのような感じで自宅保育をしている。出来るだけ学校と同じように過ごさせるようにしようと思っていて、9時から3時ぐらいまでは勉強をしている感じ。妻は時差出勤と土曜日だけはリモートワークが出来るようになっている。

– ライブや音楽活動の現状について。

ライブは、ほぼ中止だね。制作はいつものペースでやっている。今、オンラインでのライブというか演奏の準備を少し始めている。実は、去年の12月に深夜のガストで3人で集まって話し合ったんだよね。パフェとフライドポテトを食べながら。その時に、急にというわけには行かないけど、また遊ぼうよという感じになった。その延長線上で、今オンラインで何か出来ないかなと思っている。ま、でもバンドでの音楽活動をオンラインで再開させるというよりも、遊びかな。

オンライン上での音楽の活動というモノには、そもそも前から凄い可能性があったけど、でもそれには今まで駆り立てられてはいなかった。それが、最近は少し面白いかもねと、思い始めている。自分自身がそういう段階に来てるのかもしれない。TOMMY BEEFは少し整理がつきそうで、今度は自分のお店の準備をしているわけだけど、また自分のやりたい事にエネルギーを注げるから、そういうのも関係しているかもしれない。

このコロナのことで家にいる時間が増えたから、そうなると何かやろうかなってなるよね。心の片隅にあった、そう言えばこれやりたいな、みたいなモノの優先順位がTo Doリストの上の方に来たって感じなのかな。個人的に曲を作るというのは、変わらないペースなんだけど、そこに誰かに参加してもらうという余裕は暫くの間なかった。でもこの状況で、そういう事も出来るようになりつつあるのかな。

そもそもキャメルは、近所の友達同士が、ただ遊ぶようにやっていたバンドだから、あまり大袈裟なモノでもないんだよね。今も個人的にも音楽活動はやっているけど、商業的な活動からは距離を置き始めていて、音楽について遊びの領域を取り戻しつつあると思うんだよね。ミュージシャンと言えば、制作とライブ(営業)っていうのがあると思うけど、今はそれがピンと来ない。作りたい時に作って、聴かせたい時に聴かせて、それにギターを合わせてもらって、それで満足みたいな。作品を作りたいとかっていうのが、今は目的にはないよね。駆り立てられるように曲を書いて、そこに玄にギターを入れてもらいたいなとか、須藤にベースを入れてもらいたいなとか、そんな感じ。

僕なんかは、経済活動が停滞しつつはあるんだけど、でもそうなることによって何かを取り戻しつつもあるのかもしれない。よくある話になっちゃうけど、そもそも経済活動をして一体何を求めてるのかな。この状況を求めていましたみたいなね。生物としては健全な気がするし、子供たちを見ていると特にそう思うね。幸せそう。とは言え、やっぱり困っちゃうし大変なんだけど。

– そんな話をしていて、ふと給付金の事とか、何か動き出しそうなベーシックインカムの話とかが気になった。

人間的には良いような気もするし、でもその反面、生存本能が脅かされるという状況から離れ過ぎる事に若干恐怖を覚える。社会的に守られ過ぎるという状況を僕は恐れているかもしれない。リスクはあるけど自立していたいと思っている。何かアクションを起こせば、そこには常に反作用がある。見えないし、皆も意識しないから、派手な方、目に見える方を追っちゃうけど、そこには影みたいなものがいつもあって、そっちの影の方が、いつか取り返しのつかない事をしやしないかと、それが怖い。

– この今の状況、そしてこれから少しこの騒動が落ち着いてきたら、何かやりたいと思っている事はあるだろうか。

基本的に僕はいつも人生を計画した通りに駒を進めたいと思っている。それは、世界がどういう状態だから、こうしよう、というような計画ではなくて、自分達家族の状況に合わせて計画をしている。子供達がどんどん大きくなって、下の子も来年には小学生になるし。それまでに、こっちで自分の店を出さなくちゃならない。そういう意味で言えば、世界の状況がどうあれ、自分のやらなければならない事は、びっしりうまってる状況なんだよね。ただ、このコロナの事があるからギリギリの舵取りになる。ほんの少しだけ、自分の歌とか、小さな規模のライブをオンラインで発信したりという事に、ポジティブになったかな。基本的には好奇心みたいなものが希薄だから、新しい事とかあんまりやらないし。これまでは、時間もないし興味もなくてあまりやってこなかった。でも、このコロナの事で、皆が自宅にいなきゃいけないような状況ができて、やっても良いなぁという気持ちが少し出てきた。でも、やるなら、やっても良いなぁっていう気持ちから、もう少し踏み込んでやりたい。雑に始めたくないだよね。残っちゃうし、自分が駆り立てられるようにしてやりたい。


僕たちは、このコロナの騒動が始まる前から、今も、そしてこれからもずっと、1分1秒かけがえのない生を生きている。日常の生活で忘れそうになるけど、死は生の境界線を超えた向こう側にではなくて、今もずっと僕たちの生のすぐ隣で、影みたいにぴったりとくっついている。彼の演奏を聴くといつもそんな事を考える。もうすぐ3歳になる自分の息子の、全身全霊で泣いて笑って今を生きている姿を見ていると、この日常の何と愛おしい事かと、そしてまた皆で福岡に遊びに行きたいなと思った。


PROFILE : 齋藤キャメル

1980年、山梨生まれ。 1995年よりWATER WATER CAMEL のボーカル・ソングライターとして活動を開始。2009年に山梨に「パタゴニアの南喫茶店」をオープン。2016年から活動拠点を福岡へ。2018年にCDと手紙とミニレシピをまとめた『海のまえ、森のなか』をリリース。同年佐賀にコーディネーター、料理番として関わる精肉店とカフェ「TOMMY BEEF」をオープン。


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