樽木栄一郎 from 福山

タイトル : I’m here… #03
場所 : 福山 (広島)
撮影日 : 20th/Apr./2020
ゲスト : 樽木栄一郎
曲目 : mum(マム)/樽木栄一郎


樽木栄一郎、彼は年間300本を超えるペースで歌を歌いながら、全国津々浦々を旅してまわっている。そんな彼が、今のこの旅に出られず、歌を歌えない状況の中で、どんな事を思っているのだろうか。半分は心配で、でも後の半分は、今更こんな事で右往左往もしていないだろうと、お互いの近況報告ぐらいのつもりでインタビューをした。

少しほっとしているかもしれない。考えるチャンスだし、受け取る側にも考えてもらえるチャンスだし。

– 彼が暮らす広島県福山市の現在(2020年4月20日録画時点)の状況について。

広島は、東京からは遅れて、ちょっとずつだけど意識が変わってきているかな。福山市内では感染者も十数名(確認を取ったところ、福山市の発表では、4月20日時点で21名でした。)しか出ていないから、幼稚園も、各家庭の判断に任されている。とりあえずは通わせられる間は通わせようという感じ。今日も愚図りながら登園してたけどね。大きめの商業施設なんかは閉まっているけど、知り合いの自営でやっているところは縮小しながらもまだ営業している。

– ライブや音楽活動の現状について。

何年かに一度どこでも演りたいというような虫が騒ぐんだけど、去年は329本(1日の複数公演もカウントして)のライブを演った。それがこの2週間はニートだねぇ。毎日、キャンセルの連絡があるんだけど、不思議なことにめちゃくちゃ冷静。でも、それは思い返せば、震災の時もそうだったし、広島の大雨の災害の時もそうだった。心の準備も出来ていた気がする。コロナの報道があったはじめの方に、何か予感があった。現場主義の自分が一番に被害を被るのは分かっていたわけで。だから、東京で緊急事態宣言が出る前に、予定していたよりも早く、拠点を東京から広島に移した。家族には先に広島に戻ってもらって、自分は各地の演奏を、まわれるだけまわろうという感じだった。

一人も感染者が出ていなかったというのもあって、島根とか山陰の方は、割とのんびりしていて、お客さんも結構沢山来ていた。東京を出る時には大変な雰囲気だったけど、島根についたら、皆普通に生活をしていたから、東京との温度差が凄いなと思った。島根の柿木村という所が最後のライブだったんだけど、島根の中でもかなり山深い場所。自給自足や兼業(ダブルワーク)で生活している人もいて、そうやって全国の僻地で僕が出会う人たちは、都会で何かあった時にワサワサとした雰囲気になるのが嫌で移住してきている人も多い。 ある意味最先端だよ。テレビとか報道もほとんど見ないし、皆楽しそうだよね。本当に危なければ、誰々さんが教えてくれるだろ、みたいな昔の田舎の流れがそのまま生きている。そういう場所に行くと、そういうものなんだろうなと思う。

情報過多で、普通に暮らしていれば良いところも不安になったりするでしょ。周りは色んな事を言うし。入れなくても良い情報も沢山あるというのを、田舎に行って教えてもらう感じがする。しばらくは、必要な時だけラジオを付けるぐらいで、ネットもテレビも見るのをやめてしまった。情報に振り回されると、何も先の事が想像出来なくなってしまう。例えば、本当は普段から毎日人は沢山死んでいるんだけど、こういう時にだけ、何人死者が出ましたとか暗いニュースばかり流れる。

自分みたいな活動の仕方だと、本当に皆に心配される。でも、覚悟はもう20年ぐらい前に出来ている。どうあっても、この活動は続けていくと旅に出始めた時に決めたからね。止まる理由が出来たというか、やっと休めるなっていう感じもある。今、十何年振りに休んでる。

– この今の状況、そしてこれから少しこの騒動が落ち着いてきたら、何かやりたいと思っている事はあるだろうか。

今まで旅をいっぱいしてきたから、コロナの事とは関係なく、ちょうど今年から、制作に時間をまわして行こうかなと思っていた。そんな矢先の事だった。今、皆ライブの配信に移行していて、それが垂れ流しとも言えるような状況になっている。好きな時間に出来るし、バンバン演ってしまう。気持ちは分かるけど、それでは元々の価値がどんどん下がってしまうと思うんだよね。誰かに向かって歌うという行為自体がビジネスとして成り立たなくなってくると思う。無料で流しますという流れになってくると、逆に生のライブというものに改めて価値を見出していく必要があると思う。配信に移行している事を全然否定はしないけど、自分は異業種で、逆に振り切りたいと今は考えている。きっと、ライブを主催する側や会場はビビってるし、必要なければしないという流れになっていくと思う。風評被害も怖いしね。だから、自分の場合は自らプッシュして「コイツ来ちゃうからしょうがないんだよ。」っていう方向に思わせていかないといけない。自分が若干悪者になるというかね。ま、それは例の一つで、どうしようもなくなったら、蕎麦職人にでもなってるかもしれない。

ただ、こういう事は、これからも何回か絶対あるはず。自分の舵の取り方とかペースとかを、如何に自由自在に伸縮出来るか、フレキシブルに動くかというのが、フリーランスの醍醐味だよね。全ての責任は自分に跳ね返ってくるからキツいところでもあるけどね。でも、それを楽しめないと残れないよね。あと、音楽をどこのポジションに置くかというのも重要で、ずっと真ん中に置こうとすると、それこそ自殺者が増えてしまう。ある程度散らし方を上手くやっていけないと、ずっと続けるのは難しいんだなと、最近特に感じる。

もう、全然元気だよ。不安にならないのが不安なぐらい。少しほっとしているかもしれない。ずっと頑なにやって来た人にとったら、考えるチャンスだし、受け取る側にも考えてもらえるチャンスだし。


インタビューを終えて、この記事を編集している時に、大切な事を聞き忘れていることに気が付いた。4月22日に発売となった新作「ett」の事をまるで聞かなかったのだ。しかも、今回のアルバムは彼自身初となる、ソロ弾き語りの作品だったのだ。今思えば、いくつか聞きたい事があった。このタイミングで、故郷福山に拠点を移し、そして原点回帰となる作品をリリースした。そんな彼の歌が、早くまた全国の心温まる”密”な場所で鳴り響く事を願っている。


PROFILE : 樽木栄一郎

広島県福山市出身。独創的かつ芸術性豊かなギター弾き語りスタイルで、全国各地のカフェ、雑貨屋、ギャラリー、古民家、美容室、本屋など、場所を選ばず様々なシチュエーションでライブを行っている。絵描きやデザイナー等、異業種のクリエイターとのコラボも展開。

アーティストへの楽曲提供、ゲーム、CM、ラジオ、映画、店舗BGMなど多方面の音楽制作にも携わる。2015年3月に東京 両国国技館で開催された『TOKYO GUITAR JAMBOREE』に唯一フリーランスのインディーアーティストとしてシークレットゲスト出演し、トータス松本(ウルフルズ)、玉置浩二、奥田民生、岸田 繁(くるり)等と共演。大きな反響を呼ぶ。

2016年のライブの本数が300本を超える。デンマーク、スウェーデン、バスク、タイ、韓国、中国、スコットランド、アルゼンチンなど海外のアーティストとの交流も勢力的に行っている。

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