いしわためぐみ & 藤|||||||||||田 from 大月(山梨)

タイトル : I’m here… #07
場所 : 大月 (山梨)
撮影日 : 29th&30th/Spt./2020
ゲスト : いしわためぐみ&藤|||||||||||田


4月の始め、緊急事態宣言が発令された前後に、音楽家の藤|||||||||||田に一度、インタビューのオファーを出していた。その時は、直接会って取材を出来る様な状況にはなくて、ZOOMを使いオンライン上でのインタビューを想定していた。しかし、今回のインタビューでも彼が話しているが、丁度dommuneの出演直後で、疲労のピークにあった様な状況で、その時にインタビューは実現しなかった。それから、約半年が過ぎ世間の緊張もようやく少しずつ解れ、今度は、藤|||||||||||田とパートナーである美術作家のいしわためぐみが共に暮らす、山梨県大月市に足を運び、対面でインタビューをする機会に恵まれた。これまでにも、何度か訪れた彼らの住むあの場所へ、また行くことが出来ると思うと、それだけで少し心は安らいだ。

自分の場合はスタジオがあって、毎日音を出せる環境があったから、そういうサイクルみたいなのは何も変わらずにやれた。情報に疲れてるだけで、情報がなければ普通の生活だった。

– 4月の緊急事態宣言が出た頃、こちらではどんな状況だったのだろうか?

藤|||||||||||田: 4/2にdommuneでライブ配信があった。もともと、dommuneの出演が決まった時は、お客さんを入れてやる予定だったけど、無観客配信という形に変わった。自分以外にも4人ぐらい出演者がいる企画だったけど、最終的には僕一人でライブをやった。今だとあまりないような事だけど、3月4月の頃だと、無観客配信ですらも、演者が辞退するという人と、配信なら、まぁ良いよという人が分かれていた時期。

いしわためぐみ: dommuneの後にソロの公演もひかえていて、それもキャンセルするかどうするかとか。それを3月ぐらいからずっと家で話をしていた。すると、子供の調子が悪くて、最近落ち着きがない、というように保育園から言われたりしていた。家では、ずっと大人の会話が多くて、それでかな。

藤|||||||||||田: 普段は、あまり仕事の話を言わない時もあると思うけど、余裕がなさすぎて、色々言っていたんだと思う。dommuneが終わって、その頃、精神的にもコロナの事も日々変化していた。ちょっとしたSNSの情報で世の中の空気感も二転三転しているような時期だった。

いしわためぐみ: その間にも、先の仕事が一個一個キャンセルになっていって、最終的には全部無くなった。

– その頃の周囲の様子はどういう感じだったのだろうか?

いしわためぐみ: この辺を歩いても人に会わないしね。もともと、会ってもいつもの一人、二人。

藤|||||||||||田: それは何も変わっていない。家の周りの出来事とか、何も変わらない。

いしわためぐみ: 自粛期間は良い天気が続いて、毎日外で子供と遊んで、有意義だった。

藤|||||||||||田: 都内だと、皆部屋から出れなくなったりしてたでしょ。スーパーにだけは行けるとか、出前も対面では受け取らないとか。でも、ここはそういうのとは無縁の環境。毎日、外で遊んで、そういうストレスは全くなかった。

例えば、ミュージシャンでドラマーだと、スタジオにいけなくて、楽器を演奏することすらできなくなったけど、自分の場合はスタジオがあって、毎日音を出せる環境があったから、そういうサイクルみたいなのは何も変わらずにやれた。情報に疲れてるだけで、情報がなければ普通の生活だった。

いしわためぐみ: 子供の保育園がお休みになって、忙しいでしょ。さらに、たまたま4月5月と仕事も多かった。携帯を触る時間がなくなって、情報を見る時間がなくなったら、気持ちが落ち着いた。子供が家にいるという環境が楽しかった。3歳半ぐらいになって、ちょっと目を離してても大丈夫だし。ぎゅっと成長をみることができた。

藤|||||||||||田: 子供がいるという環境に関しては全然平和だった。家の外で遊べるのが大きいと思う。

いしわためぐみ: やることを提供しなくても、無限にある。天気が良くて、ずっと外に居た。ずっと花摘んでた。毎日毎日花を持って帰って来て。

– その間に何か新しいことを始めたりしただろうか?

藤|||||||||||田: ライブの収入が全部飛んじゃったから、目下の収入がなくなってしまった。なんとかしなきゃいけないと、始めたことの一つがBandcampだった。とても素晴らしいサービスで、世界中でBandcampを始めたミュージシャンが多かったと思うけど、僕もその一人。4月に準備をして、5月にスタートした。あと、4/3にスイスのレーベルからレコードをリリースして、そのレコードも4月に手元に届いたから、それを売ることで収入に出来た。

9年アルバムを出してなくて、音源作品を作るというモチベーションがそれほど強くなかった。モチベーションがあれば自主制作ででも出せば良いけど、それもしなかったっていうのは、ずっとライブ表現がメインでやってきたからなんだよね。

コロナに入ってから一番変わったことかもしれないけど、今までは、常に次のライブを何しようかとか、そのライブっていうものを中心に考えて生活してきた。だけどコロナ禍以降は、常に音源の事を考えている。頭の片隅に常に音源作品のことがある感じ。そういうのはここ10年なかったわけ。それって大きい変化かもしれない。

コロナでライブが全部飛んでいくのを、振り返ったりして、何が一番ダメージだったかって、ライブが延期になる事だった。もちろん収入的なダメージもあるんだけど、それよりも、生き方の問題の話で。ライブの日が来て、ライブが終わって、で、抜け殻みたいになるんだけど、でも、次のライブがあるから、その日に向かって、また準備を日々していくっていうサイクルが、自分の生き方だった。ライブをするという約束の日があって、その日に向かって生きている。その約束の日が変わってしまうと、どう生きて行けば良いかが分からなくなってしまう。

ようやく都内でもフィジカルのライブが少しずつ増えてきているけど、例えば今ライブのオファーが来て、それを請けるには、前と違って、ある程度延期の可能性を許容する必要があると思う。ちょっとした社会の空気とか、感染状況の波次第では、延期の可能性もあるよねっていうのを許容した上で、その約束の日を設定して、それに向かって、生きて行かなくちゃならないと思う。だけど、そのやり方が僕個人的にはまだ分からないでいる。また、許容出来ないでいる、、、。約束の重さみたいなものが、確実に変わってしまっていると思う。その約束こそが自分にとっては重要だったんだなと。だからそれについては、今も困っている。

いしわためぐみ: 私は仕事が全然変わらなかったんだよね。納期すら変わらなかった。今までも、大月に引っ越してからは、だいたい打ち合わせは、ウェブ会議でみたいなことになってたから、ずっとやりとりは電話とメール、ネットでっていうのは変わらない。原画を郵送するから、送る場所が出版社じゃなくて、自宅になったりしたけど。仕事に関しては、ほとんど変わらない。

今、子供の造形教室みたいなのをやりたいと思っている。それは、コロナの自粛期間の影響があると思う。やりたいっていうのが半分で、やんなきゃっていうのが半分。コロナの期間に、子供のお絵描きブームが来たの。1週間のうちに絵がすごい変化した。もともと、子供という人たちは苦手だったんだけど、自分が子供を産んでからは、周りにだんだん小さな友達が増えてきて、そうすると、「かけがえのない」という言葉を実感するようになった。そして「自分は大人だ」という実感が出て来た。そういう中で、造形とか美術を通してなら何か出来る気がするんだよね。

藤|||||||||||田: 子供達の絵を見る機会が増えていて、皆同じような絵を描くとか、太陽はオレンジ色で描くとか。本来、絵とか美術とか正解が無いはずのものなのに、こういうようなモノが正解として、その上で点数がついていたりする。そういう教育に根本的に疑問がある。

いしわためぐみ: 子供と一緒にやりたいクリエイティブな遊びって、凄い沢山あったはずなんだけど、日々生活をしていると、そんなにやれていない。それが自粛期間に少しできて、そういう場所があったら良いなと思っている人がいるんじゃないかと思う。

いしわためぐみ 藤|||||||||||田:それと、もともと、自分の生活の周りのモノは自分で作りたいという欲望が強かったけど、さらに強くなっている。震災の時と近いような空気感というか。実際にインフラは止まってはいないけど、止まっても、変わらない生活が維持出来ると強いなとか。あとは、電気が作れたらと思ったり。自粛期間ちゅうも、スタジオで毎日音が出せたっていうのは、自分の生命にとっては重要で、インフラが止まってもそれが出来たら良いよね。

薪だから火も使えし、水も井戸だから。後は電気があれば、災害時でも普通に生活が出来る。制作も出来るし。自給について、前よりも考えた。皆、結構考えたりしたんじゃないかな。

取材を終えて、大月駅から宿泊地である新横浜へ。電車で僅か1時間半ほどの距離だ。それでも、都心に近付くほどにだんだんと、車窓を流れる景色に建物が増えてくる。そして、乗客も少しずつ増えてくる。当たり前のように、ほとんど全ての人がマスクをしている。僕の身体に染み込んでいた、薪ストーブの煙の香りにも、もう気付く人は居ないだろう。ホテルに着いて、自分の立つ位置を確かめるように、今度はいつ彼らに会えるだろうかと、撮影し終えたばかりの動画を見返した。


PROFILE

藤|||||||||||田:a.k.a 藤田陽介。独自の空想と実験から生み出された自作のパイプオルガンと声、水(水槽)などによるソロ・パフォーマンスを主軸に、サウンド・インスタレーションや映画音楽、ダンス作品の音楽など多岐に活動する。聴いたことのない音を聴きたいという興味(欲求)に従って、あらゆる現象/メディア/状況を取り込みながら音楽を探求している。2020年4月3日、9年ぶりとなるニューアルバム「iki」がスイスのレーベル・Hallow Groundよりレコードでリリース。

http://fujita-yosuke.moo.jp/

いしわためぐみ:1980年生まれ。2005年頃よりイラストレーターとして活動中。同時に美術家としても活動中。雑誌、書籍、広告、CDジャケット、website、Tシャツなどのイラストレーションや美術を手掛ける。図工の延長線上で、モノの新しい可能性と創作を探求している。

あそびの実験!冒険!ワークショップ
https://megumishiwata.wixsite.com/works

Comment

There is no comment on this post. Be the first one.

Leave a comment