企業分析

目の前にある物

つい人は目新しい物に目を奪われ、声の大きい言葉に関心を寄せてしまう。積み重ねてきた過去の上で今を生きることしか出来ないのに、確かなことなど何も言えないはずの未来に大き過ぎる期待を寄せ、時には何もかも諦め絶望する。でも、誰もが忘れ去ってしまった場所にも、美しい物は埋もれているし、真実は小さな声で語られることもある。今、目の前にある物を仔細に見つめ、過剰な期待も絶望も抱かず、あるがままに捉えるにはどうすれば良いだろうか。そこには、様々な困難を乗り越えるための足がかりがある様に思う。

例えば、僕は、話題の集まる新進気鋭のアーティストよりも、ただ淡々とロウソクの光を描き続けた高島野十郎の様な画家に心を打たれる事が多い。では、どういった投資活動をするべきか。心打つ芸術を探し出す様に、価値ある投資となる企業を探し当てる事はできるだろうか。投資には、経済と芸術をもっとうまく結びつける事が出来る何かがあるのではないかと、考えているわけだから、何とか投資によって余剰利益を生み出し、それを芸術家たちを支えるエネルギーにしなければならない。だから、当たり前かもしれないけれど出来るだけ損失は少なくしなければならない。損失する事なく、少しでも価値ある企業へ投資をする。

そこで、投資家は企業の本質的価値を算定するのに苦心することになる。企業の本質的価値とは?おそらく、マーケットでプライシングされる株価は本質的価値とは呼べないだろう。新製品が出るという噂で明るい未来への過剰な期待が膨らむ。もしくは、リーマンショックの様な金融危機では、全ての経済活動は終焉へと向かうという様な過剰な絶望が広がる。そもそも、マーケットの心理も株価もいつも振り子の様に揺れていて、今、この株価がその企業の本質的価値を現しているとは言い難い。

一つの手がかりとして、本質的な企業価値を考える時に、[企業価値=企業の保有する資産価値+企業が行う事業価値] という様に捉えてみる。企業というのは、何か製品やサービス、それぞれ事業を世に提供してその対価を得ている。そして、事業を提供するのに使ったお金以上の対価を得ることが出来れば、それは余剰利益となる。余剰利益で企業は、新しい社員を雇ったり、新商品を開発したり、また次なる機会の為に預金をして蓄え、それは企業の資産となる。企業の資産価値とは、これまで事業で生み出してきた余剰利益の積み重ねであると言えるだろう。だから、[企業価値=企業が過去の事業で得た利益+企業がこれから未来に行う事業で得るだろう利益]とも言えると思う。マーケットでは、しばしば、この[企業の過去の事業で得た利益]が過小評価されて、資産価値を下回る株価で株式の取引が行われている。

実は、企業の過去の事業の積み重ねである資産価値の測定というのは、比較的容易に行う事が出来る。どの上場企業でも四半期ごとに発表される決算資料を見ればあっという間に知ることが出来る。企業が発表する決算短信の中段あたり、貸借対照表を見ると、そこには資産と負債が項目を分けて記されていて、一目で分かる様になっている。

エーワン精密という企業の2017年度の第1四半期決算の貸借対照表を参考にさせてもらう。この上の部分「資産の部」のうち流動資産に計上されている現金及び預金という項目をまず見て欲しい。「現金及び預金」とは会社がすぐに動かすことの出来るキャッシュのことだ。キャッシュはキャッシュだ。キャッシュ・イズ・キングと呼ばれるほど、キャッシュの信用度は高い。企業の保有する資産の内、このキャッシュの価値が明日いきなり半分になったりはしないだろう。この企業で言えば、約49億7千万円のキャッシュを保有している事になる。そして、今度は下の方「負債の部」を見てほしい。企業は銀行からお金を借りていたり、原価や人件費で未払いとなっているお金がここに計上されている。この企業で言えば約6億1千万円が負債合計として計上されている。たとえ、「現金及び預金」から今すぐ「負債合計」を清算しても、43億6千万円ものキャッシュが手元に残ることになる。さらに言えば、長期預金で8億円、土地も3億円とかなりの余剰となる資産を保有している。そして、決算資料の期中平均株数によれば、およそ240万株が市場に出ている事になっているので、少なくとも一株あたり1816円のすぐに自由になるキャッシュを保有している事になる。

長年に渡る苦心と事業の積み重ねとして、現在この企業は1株あたり1816円のキャッシュを保有しているのにもかかわらず、現在マーケットでは、1769円という株価がつけられている。明らかに、現在のマーケットはこの企業の本質的価値を見失っていると言えるだろう。また次の機会で、どのようにして、企業の未来における事業価値を算出するかを書いてみたい。

このような、企業の本質的価値を測定するには、様々な方法があるし、それぞれどれも完璧とは言えないけれど、おおよそのものは掴む事が出来る。先日のブックリストの中にもあげているけれど、「賢明なる投資家/ベンジャミン・グレアム」を是非、一度読んで見て欲しい。

*ページ上部の写真 美術作家 西絢香の作品より

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