成長性と持続性

Adobe


*1ドル/110円で換算

クリエイティブ系の仕事をしている人には欠かせないイラストレーターや、フォトショップといったソフトウェアを作っているAdobe。近年はCreative Cloud という月額課金モデルの事業に変わり業績は絶好調です。売上高は20%超の成長率、営業利益率は20%台後半、ROEも30%台まで来ています。営業利益の成長率が若干鈍化して来ているとは言え、売上高も1兆円を目前として、アメリカを代表するIT系高成長企業の代表格と言って良いと思います。

ヤフー株式会社

調べてみると、日本の上場企業に、年間売上高5000億円以上の会社は100社以上あるのですが、その中で成長率(過去3年平均)、利益率共に20%を超える会社というのはヤフー、キーエンス、東京エレクトロンの3社しか無いことが分かりました。Adobe社と近い売上高で、もっとも高い成長率を誇っている日本の会社はヤフー株式会社です。売上高の成長率は2016年をピークに急減速していて、営業利益の成長率にいたってはマイナス成長に落ちてしまっています。営業利益率も40%台後半から20%台前半に落ちてきています。資本効率を示すROEも、Adobe社と比べて半分ほどの値になってしまっています。

株式のマーケットにおいて、企業は短期での成長を株主から多大に求められています。前期比で何%売上高が伸びたのか、さらに四半期ごとの利益は増えているのかと。上に挙げたAdobeの株価を見れば、その成長性がマーケットの評価につながっている事がよく分かります。およそ4年間にAdobeは営業利益を3倍超に伸ばしていて、そしてその間の株価もおよそ3倍になっています。

ここで、僕が言いたいのは、やはりAdobeはすごい。アメリカのIT企業は素晴らしいが、日本の企業はダメだ。経営が効率化されていないし、生産性が低い。という事ではありません。

果たして、この成長性というのは、この社会において必須のことなのか。経営を効率化し、利益を追求することの上でしか資本主義社会は成り立たないのか。アメリカの企業に比べて、日本の企業は本当に遅れをとっているのか、ということが気になっているのです。資本主義というシステムは時に社会の成長を促すことがあります。しかし、成長が資本主義の絶対要件ではないと思うのです。成長は未来の富の先取りに過ぎないと考えることも出来るのではないでしょうか。永い未来に渡る富の絶対値を守っていく事にこそ資本主義の本来の役割があるのではないかと思える時があります。

日本の上場企業の中で、創業100年を超える企業はなんと564社もあるそうです。上場企業の実に16%近くを占めている事になります。上場企業で最も古いのは松井建設。1586年創業で、江戸時代末期まで前田藩に仕えていたとの事です。一方、アメリカでは488社が創業100年を超えていて、これはマーケットの約11%程度だそうです。ただし、株式のマーケットにおいて長く続いている企業だからと言って時価総額が高くなるなんていう話は聞いた事がありません。長く事業を持続することによって、企業がその時々の社会の変化に最適化され、蓄えられてきた知見や財産があって、それには絶対に大きな価値があるはずなのですが、マーケットにはそれを評価する指標がほとんどありません。

持続性と成長性、この一見矛盾するようなテーマの狭間に何か、未来へとブレイクスルーする鍵が隠れているように思っています。

(追記)
先日、NHKの「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」という特集を動画で見ていました。その中でチェコの経済学者トーマス・セドラチェクが出ていて、「成長を前提にしているけれど、それはおかしいだろう。晴天の日ばかりを想定して船を作るべきではない。凪の日もあれば、嵐の日もある。それでも航海は続く。」というような事を言っていました。

彼の「善と悪の経済学」という書籍は何度読み返しても面白いです。

*ページ上部の写真 画家福井基之の作品「月と牛」より

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