100年後の未来に残したいモノ

大柳美和

1978年生まれ、近年ではパートナーである画家のツダモトシと共に関西を中心に数多く展覧会を行っている。彼女が作る物を、それが何かと説明するのは非常に難しい。これまでに見た作品で使用されていた物は、薄い布、ビニール、金色の糸、石、植物、等々。時にツダモトシの絵画作品を金色の糸で縁取ってみたり、更には布やビニールで覆ってしまったりもする。ある展覧会では、ギャラリー空間の内部に、薄い布でもう一つの空間を作り出したりもしていた。 平面から空間へ、絵の中の世界を外の世界へと繋げる役目とでも言おうか。俗にインスタレーションと呼ばれる類いの作品を作っている。

彼女はかつてこんな様な事を言っていた。「私の作る物にはどれも、特別説明する様な意味はありません。」「おまじないをするような感覚だったり、見えない力みたいな物が在る事や、時間と空間が織り混ざっている“場”というような物が在る事を、信じる行為である様に思います。」インターネットに触れれば、世界の裏側の事だって、誰かが何でも教えてくれる。見えない物を信じるという事を、いつの間にか忘れてしまってはいないだろうか。100年先の未来へ彼女をどんな事を信じているのだろうか。

幼い頃の記憶。自我を持つ時。

青い空に、白い自分の布おしめが風にはためいていた。それ以降の記憶とは、切り離されていて、その光景だけが、ぽっかりと独立して記憶に残っている。
保育園に行くんだけど、凄く嫌で泣いて泣いて、毎日園長室で寝ていた。両親がとても厳しい人で、怒られてばかりいて、自分に自信が持てずに、人と関わる事が怖かった。そして、そういう自分が苦しかった。寝る前に「今日もこんな私でごめんなさい。明日はちゃんと出来ます様に。」と言う風に、お祈りというか、懺悔の様な事をしていた。何故だかは分からないけど。
そんな風だから、一人で遊んでばかりいた。一人でおにぎりを握って家の裏山に行ったり、絵を描いたりしているのは楽しかった。そういう時は、絵の中の世界に入っていけて、違う世界に居られる。宮城県の古川市、今は大崎市という市になっているんだけど、田舎で家の周りは田んぼばっかりだった。その緑色が好きだった。鏡を家から持ち出して、外で反射させて遊んだりもしていた。田んぼの緑色と空の青色の中で光がキラキラするのがとてもキレイだった。父親にはそれも凄く怒られたけど。

光の粒が光り輝く感覚。

小学校に入っても、ずっと誰とも話せなかったんだけど、2年生の時に転校してきた子が居て、その子とだけは、何故か仲良くなれた。毎日一緒に遊んでいた。ただ、ずっとそんな自分を変えたいとは思っていて、小中高と少しずつ喋れる人は増えていった。高校で美術部に入ったり美大の予備校に通ったりして、ようやく分かり合える人達と出会えて、孤独感が少し減っていった。
自分が外へと向く事が出来ずに、内へ内へと入って行く様な感じで、自分の内側ばかり見ていると、周りの景色が膜で覆われたみたいに白っぽく見えて、現実感が薄れていく。 見えている現実世界の存在感が希薄になって、自分だけ世界から遠く離されて行く様に感じる。それはどことなく、映画を観ている様な感覚に近い気がする。でも、そういう時には、自分の周りにある光ととても仲が良かった気がする。光の粒一つ一つがキラキラと光っていて、それはとてもキレイ。体調が悪い時程、世界はキレイに見えていた。不思議だけれど。

家族との関係。私の核にあるもの。

毎日の様に殴られる環境で、両親との距離が上手く取れなかった。自分の本当の心に蓋をしてしまって、親によって自分の未来が定められていく、そんな不安感に襲われて、東京に出て美大に通った。でもそれで、逆に溜まっていた物が開放され過ぎて、体調を余計に崩してしまった。親から離れると、例えば学校に行かない事だって、夜遊び歩くのだって自由で、どこに自分自身の基準を置けば良いのかが分からなくなってしまった。色んな事のバランスを失ってしまって、そうすると人と会うのも怖くなってしまって。結局、途中で大学を辞めて、そしたら当然親からの援助も打ち切られて、生活するのに無理してバイトして、とにかく、20代の前半は不安定のピークだった。
それから暫く、親との関係は最悪だった。妹が結婚して子供が出来て、機会があって一緒に帰る事があった。妹の子供と遊んでいるのを見て、親は凄く驚いていた。親が私に対して持っていたイメージと、その姿は全く違ったらしい。私の事を本当に、ずっと気が狂っているんだと思っていて、そのイメージと全然違ったんだって。私も親には心を閉ざしていた部分があった様にも思う。でも、その時から関係は随分良くなっていった。
親との関係性は、これからもずっとついてまわる気がする。何か私の核みたいな所にあるんだろうな、と思う。

展覧会で作品を発表する事について。

20代半ばで神戸に越して来て、津田さん(画家のツダモトシ)に「額縁が無いから、僕の絵に額縁を作ってよ。」と言われたのが、一緒に展覧会をやり出したきっかけ。金の糸で絵を囲んでみたり、小さな鈴を天井から吊るしてみたり、インスタレーションの様な事をやっている。それをやってみて、部屋が薄ピンクに見える、空気が仄かに染まって見える様なそんな感覚があって、これは面白いかもと思い一緒にやる様になった。津田さんとは感覚が似ている所もあるし、絵と一緒だと私の作っている物も人に近付ける気がする。
個展もやりたいと思ってはいる。私だけの作品だと、もっと人から遠くなる気はするけれど。今、見えてはいないんだけど、そこに何かが存在する様な感覚、私が作った物を通して、その何かが見えそうになる。そんな物や空間を作りたい。ただ、私の作っている物って、売れるとか、そういう物じゃないから、ギャラリーで展覧会をやるとなると難しい。発表する場所も含めて、考えていかなくちゃと思う。

100年先の未来に残したい物について。

100年の未来に残したいモノって、凄く当たり前かもしれないけど、自然を残したい。キレイな緑とキレイな光。それはやっぱり残したい。洗剤に気を使ったりとか、生活の中でごく些細な事ではあるけど、出来る事が有ればやっておきたいと思う。あの、小さい頃に見た様な美しい自然がずっと残って欲しいと思う。

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コメント

    • 元岡良
    • 2015年 8月 28日

    大柳さん、陰ながら応援しております。

  1. 2014年 8月 09日

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